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2017-09-19

つごもり月報 和暦文月

夏の暑さもようやく静まり、過ごしやすくなってきました。葛の花が咲き、彼岸花もあちらこちらで咲き始め、秋の気配が日に日に濃くなってきている感じがします。先月始めた「つごもり月報」から早いものでもうひと月が過ぎました。今月のいろいろをお伝えしたいと思います(書きやすいのでなんとなくテーマというかコーナーのようなものも設けています)。

【Talk Over Some Tea】
遊びにきてくれたらお茶でも飲みながら話したいよもやま話といった感じのコーナーです。

先日、とある写真集の英訳のチェックを頼まれました。写真のタイトルの英訳を見ていたときに、英語という言語は日本語よりも数を明確にする言語だなぁと思いました。

写真のタイトルのテキストが日本語でずらずらーっと並んでいて、その下に英訳が入っているのをチェックしていると、「帳簿→an accounting book」(厳密には「帳簿」の昔の呼び方)という英日対訳が目に入り、ふと「これって写真、帳簿一冊だった?」と訳した人に尋ねると、「ん、写真見てみる」との返事。別のフォルダに入っている写真のデータをよく見ると、「2冊以上あるっぽい!」ということで、「an accounting book(1冊)」を「accounting books(複数)」に変更しました。文字だけ見ていると、こういうのってわからないんですよね…。今回は写真を確認できたのでよかったのですが、単数なのか複数なのかわからなくてインターネットで調べまくったりということもときどきあります。

「たくさんの」を英語にするとき、漠然とmanyやa lot ofを連発するより、「数十」(dozens of)なのか、「数百」(hundreds of)なのか、それとも「数千」(thousands of)なのかをはっきりさせたほうが英語ではスマートらしく、英語ネイティブの翻訳者の方から和文の執筆者への確認を頼まれたことがあります。たしかに、英語の記事を和訳していても、デモの参加者数や、自然災害などの被災者数についてはhundred thousands of(数十万人の)など、読み手が単位や規模をより明確に描きやすい表現が使われています。

今回のaccounting booksの件では、「助かった~」と感謝されて「大したことでは…」と言う私に、「いやいや、オオゴトだよ!」との返事。たかが数、されど数…自分でも気をつけようと思いました。

【手を動かす】
最近つくったもののこと。
・リネンのベスト
以前変形もんぺを作った紫色のリネンの生地が余っていたのを見つけて、クラッシックベストにしました。シンプルな形で何にでも合いそうです。三つ折りにして角を額縁仕立て(三つ折りにすると角で重なったところが分厚くなるので生地を少し切って額縁のように端がピシッと斜めに合うようにする)にするのを初めて覚えました。裁縫は全然やってこなかったので、必要なものをつくりながら、やり方を覚えている感じです(ミシンは全然できません)。

・ストールのお繕い
草木染め作家のKittaさんのリネンのストールを昨冬中ずっと巻いていたら、結ぶときにぎゅっと引っ張られるところがあちこち切れて穴が空いていました。さすがにかれこれ5年くらい使っているので、摩耗してきたのかもしれません。深い緑のリネンの生地なので、何色かのリネンのハギレを丸や三角や四角に切ってクレージーキルトみたいに両面から縫い付けたら、なんとなく現代アートちっくな感じに蘇りました。これから暇をみて補強に刺し子を入れる予定です。靴下もたくさんダーニングしました。

・お祝儀袋
きれいな手漉き和紙があったので、昔もらったお祝儀袋の折り目の寸法を測ってヘラで折り目を付けて、お祝儀袋に。のしマーク(?)は消しゴムはんこを彫りました。天然染料で染めたイラクサの紐に、昔はまってよく作っていた花型のオヤ(ビーズと糸を組み合わせたトルコのレース編みのようなモチーフ)を帯留めのように結びつけて、水引の代わりに。どの材料も手仕事から生まれたもののせいか、どこかあたたかみのあるものになりました。

・日本の紋様の消しゴムはんこ
お祝儀袋に押そうと思って、桜や梅、たんぽぽ、すみれ、ふきのとう、菱(ひし)など、季節の植物やおめでたいとされる紋様の消しゴムはんこを彫りました。…が、お祝儀袋を組み立ててみたら、シンプルなほうがきれいだったので、無地のままにして、ハンコは今少しずつ作っている来年のカレンダーや、一筆箋などに押すことにしました。迫力のあるハンコたちがたくさんできました。

【しごとのこと】
数か月前にお手伝いさせてもらった英検準1級の対策書が無事出版されました。あとは、レギュラーのお仕事に加えて、英訳のチェックを少し手伝わせてもらったり。わりとのんびりしたひと月でした。

【最近読んだ本から】
このひと月に読んだ本からおもしろかったものを紹介します。
「物・物」
芸術家の猪熊弦一郎さんが集めた国内外の生活用品、民藝品、アンティークなどさまざまな物のコレクションの中から、著者がいくつかをピックアップして写真家さんとその物について語るという本。まえがきにあった猪熊さんのこの言葉のように物と付き合えたらいいなぁと思いました。
"永い画家の生活をしていると住居の中には、いろいろなものが私達の本当に良き友として、あるものはまるで恋人のように静かに同居している"
「となりのイスラム」(内藤正典著/ミシマ社)
非イスラム教徒としてイスラム教徒の人たちと長年交流してきた著者の視点から、イスラムの教えと、イスラム教徒の人たちについてありのままに書かれた本です。ダーイッシュ(IS)をはじめとする過激派組織がなぜ生まれてきてしまったのかについても、中東をめぐる問題、植民地支配にまで遡ってわかりやすく深く解説されています。最近流行しているという「ハラール」ビジネスや認証についても苦言を呈されていて、そちらもすごく納得できる内容でした。

イスラムの教えについてこの本で読んで、イスラム教徒の人たちが正しいと信じていることに照らしたら、「げー」とか「そりゃないでしょ」とかなることがたくさんあるんだろうと思うのですが、「無理強いをしてはいけない」「人を線引きしない」というイスラムの教えの原則から、考えや暮らし方の違う人たちに教えを押し付けることなく、どんな人にも分け隔てなく親切にしようと努めて(もちろん人によってその度合はまちまちでしょうけれども)、長い間共生してきたのはすごいことだと思いました。

また「失敗も成功も神の采配と考える」というイスラムの教えは、日本人になじみのある仏教の「他力」という考え方とも似ているかもしれないと思ったりもして、きちんとイスラム教のことを知れば共通点が見いだせるし、むやみやたらと怖がる前にまずは知ることが大事だと思いました。知った上で、相手が嫌なことはしちゃいけないし、お互いに気持ちよく過ごせる方法を話し合って決めたほうが、知りもせずに思い込みでレッテルを貼って排除したり、ばかにしたりするよりもずっと建設的で合理的だと思います。

「春夏秋冬 土用で暮らす」(冨田貴史・植松良枝著/主婦の友社)
四季とその間にある移行期間の土用におすすめの食や養生、過ごし方について、過不足なくまとめてくれている本です。レシピも充実しています。和暦は天体の動きと地上の自然観察に基いて先人が築き上げてきてくれたもの。この本を読んで、和暦は、畑仕事など自然と関わる仕事に役立つだけではなくて、自然の一部としての自分の身体と付き合っていく上でもとても役に立つものだと感じました。

それから、二十四節気(春分点と秋分点、夏至と冬至を基準に24に季節を分けたもの)の円と地球の公転の図が出てきます。これを写していたときに、時間の感覚が自分の中で変わったような感じがしました。いつも時間を直線的に捉えていて、過ぎたらなくなってしまうもの、上手にやりくりして使わなければならないものと考えがちでした。具体的には、仕事が入っていないときや調子が悪くてスローペースになっているときなんかに「今日もまた時間を無駄に過ごしてしまった…」とお金になることや目に見える生産活動に時間を多く使わなかったことを悔やんだり。

だけど、地球が太陽の周りをぐるぐるしていて、その銀河系がまた動いていて、その中に自分もいて一緒にぐるぐるしていると思ったら、宇宙の中の存在としてもう少し立体的に時間が捉えられるようになった感じがします。あまりうまく言えないけど、「もっと早く立派にならなきゃ」「もっと早くこれができるようにならないと」みたいな焦りがぐんと少なくなって氣持ちが楽になったかも。このぐるぐるを生きているうちに何回繰り返すかはわからないけど、焦って成長しようとして無理がたたって早く人生が終わるより、ゆっくり無理せず地球号での宇宙旅行を続けて、長い人生にしたほうが、できることも多いだろうし、愉しいし、みたいにどーんと構えていられるようになった気がします。季節に合わせて身体をいたわりながら、食べることと暮らすことを愉しんでいけたらいいなぁと思える本でした。

【編集後記みたいな】
今月はたくさん本が読めたので、ほかにも紹介したい本があと何冊かあったのですが、だいぶ長くなってしまったのでまた来月以降にご紹介したいと思います(最後の「春夏秋冬 土用で暮らす」のリンクは、探したなかで書籍の紹介が一番充実していたので版元のページではなく三宅商店さんのページをつけました)。自分の活動ばかりに集中していると、世界が限られてきてしまうように感じますが、本を読むと、世の中の動きや知らなかった世界のことに幅広く関心を持ち、望む世界をつくるために必要なことについて、自分なりに考えることもできるように思います。読書の秋にもたくさん本を読みたいです。