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2019-02-04

つごもり月報―和暦師走(2019/01/06-02/04)ver. 2-vol. 5

今日で和暦師走の晦日(つごもり)となり、明日から和暦の新年・睦月となります。ロウバイの香りがふわりと鼻をくすぐる季節になりました。梅もちらほら咲き始めて、とてもきれいです。梅の開花といえば、じゃがいもの植え付けの合図とも聞くので、そろそろ気になりはじめました。ではでは、今月も和暦師走のつごもり月報をお届けします。

ご関心のありそうなものだけ読んでもらうこともしやすいように、目次のようなものもつけています(テーマの変更の経緯はこちら(vol. 14)を、つごもり月報を始めた経緯については初回の記事(vol. 1)をご覧ください)。

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【1】These days ... ―最近のあれこれ:大寒の味噌仕込み
【2】Words Pick Up―今月拾った英単語:microaggression(s)
【3】News Pick Up―今月拾った英文記事
【4】Happy Things―お気に入りのモノ・コト紹介:マルカワみそさんの自然栽培蔵付き麹
【5】Books&Music:今月は音楽『You've got a friend』(Carol King/1971)
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【1】These days ...:大寒の味噌仕込み
最近のあれこれを書いてみます。
1月20日から大寒、大寒といえば味噌仕込み、と言われるそうで、6年くらい前から毎年、大寒のころは味噌をつくっています。引っ越しが重なってできなかった年もあり、今年でたぶん5回目。

冬に仕込んで、ひと夏越したら食べられますが、我が家では3年寝かせています。毎年10キロ以上仕込むので、なかなかのおお仕事ではありますが、よく自分のしたことをほめることを「手前味噌」と言うように、やっぱり、自分で仕込んだ味噌はおいしいです。

麹は毎年、福井県のマルカワみそさんから、蔵付き菌の玄米麹を送ってもらっています。今年は、秋田県産の自然栽培米の麹、大豆は北海道の渡部さんの無農薬大豆でした。いつか自分たちで育てたお米と麹と大豆で、味噌を作ってみたいです。

【2】English Words Pick Up―今月拾った英単語
今月取り上げるのは「microaggression」(複数形はmicroaggressions)という単語です。

aggressionは、「攻め」「攻撃」「侵害」といった訳が当てられることの多い名詞(形容詞形はaggressiveで「攻撃的な」「積極的な」)ですが、これに「小さな」「微小な」といった意味の接頭辞micro-がついています。「ささいな攻撃」「ちょっと傷つくこと」みたいな感じでしょうか。ささいな攻撃やちょっと傷つくことでも、積もり積もれば大きなダメージになりかねないもの。できることなら与えないように気をつけたいところです。

この言葉に初めて遭遇したのは、女性と結婚した日本の女性が綴ったブログ記事でした。日本では制度も整っていないばかりではなく、性的マイノリティに対する意識もまだまだ発展途上なので、もっと暮らしやすい外国に住まれています。(たまたま検索していて出会っただけで、プライベートな内容も含まれているので、ブログのリンクをご紹介していいものかはばかられ、迷いましたが、リンクは載せないでおきます。)

無意識に持っている固定観念で相手を見るせいで、相手を型にはめて憶測して語ってしまい、嫌な思いをさせてしまうことを、microaggressionと言うそうです。誰かから自分のことを、自分が自分に対して持っている認識と異なる何かに当てはめられて語られることは、どんな人だって気持ちのよいものではないでしょう。

前述のブログでは、具体的なエピソードとして、親しい友人に、一緒にいた男性を「旦那さん?」と聞いたら、その友人が「法律上の夫婦ではないので、パートナーと呼んでもらいたい」と率直に言ってくれたという話が紹介されていました。パートナーとの関係についてはさまざまな考えがあるので、本人がしっくりくる表現が大切だと思います。その方は、きっと複数の人から何度も同じようなことを言われて、何回もプライベートなことを説明しなければならなかったのだろうと想像すると、それは心労だろうなあと思いました。

日本だったら、角が立つから水に流せと言われそうなものですが、多様なパートナーの在り方が制度として整っている国だけあり、こういうことを率直に言えるというのもすごいなあと思いました。

ご自身も、日本に来たときに、空港の窓口で自分のパートナー(女性)を「パートナーが」と言っているのに、係の日本人の方にことごとく「ご主人が」と言い換えられるというエピソードを書かれていました。途中でパートナーが登場し、係の方は女性であるのを知って青ざめていたそう…(それもどうよという感じですが)。主従関係ではないのに、「ご主人」なんて気分がわるいでしょうし、本人が「パートナー」と言っているのですから、丁寧にしたかったら「パートナーの方」とか言うのが適切だと思います。

他にも例として、関係を相手が明らかにしていないのに子どもと一緒にいるからといって「お母さん」「お父さん」と呼んだり(迷子放送でも最近では「お連れ様がお待ちです」と言いますね)、大学に行っていない人に「どこの大学行ってたの?」と聞いてしまったりといったことが挙げられていました。

こんなふうに、悪気はないにしても、相手が明らかにしていない繊細な情報を、固定観念に基づいて憶測して、相手に適用してしまい、相手に嫌な思いをさせてしまうことを英語ではmicroaggressionと呼ぶようになってきたようです。

Merriam-webster(英英辞典)によると、1970年代にはすでに存在していたそうですが、ここ数年になってよく使われるようになってきたとのこと。

悪気がないんだからいいじゃんとも思ってしまいそうな話ではありますが、誰かに嫌な思いをさせていいわけではないよなあと思いました。不注意で誰かにぶつかってケガをさせて「悪気がなかった」で済まされるわけではないのと一緒。避けられるように努力するのは大切だと思いました。

読んでいて、過去に「やってしまったなあ」と思ったmicroaggressionを思い出しました。学生のとき、知り合って間もない友人に「出身はどこ?」と聞いてみたら、友人は「その質問、聞かれるたびにイラっとするんだよね」と言います。「???」と思考停止状態の私に、友人は「生まれたのは東京だけど、親が転勤ばかりで地元と呼べる場所がない」と続けます。みんなに故郷があると思いこんでいたから、こんな質問をしてしまったのですが、地元にいい思い出がない人もいるし、親がろくでもない人間で地元はないに等しい人もいるかもしれないし、どこがルーツなのだろうと悩んでいる人もいるかも…と少し想像を巡らせてみると、実はかなりリスキーな質問だと思いました。友人にとって故郷と呼べる場所がないことはもしかしたら傷ついていることだったのかもしれません。

相手と自分は考え方や捉え方、状況が違っているかもしれない、と立ち止まって考えてみることで、microaggressionは避けられるのではないかなと思いました。率直に「こう言ってもらいたい」と安心して言い合える関係を築くことも大切。多様なバックグラウンドや考え方に配慮した表現ができるように、常に世界全体のことにアンテナを立てて、よく勉強しておくことも大切だなあと思いました。

【3】News Pick Up―今月拾った英文記事
リーディング素材として毎月1本、英文記事をご紹介しています。

今月はWorld Economic Forum(WEF)のブログからこちらの記事をご紹介します。
Costa Rica is one of the world's happiest countries. Here's what it does differently(World Economic Forum blog 2019/01/31)[約743語]
中米の小さな国コスタリカについての話題です。『平和ってなんだろう―「軍隊をすてた国」コスタリカから考える』(岩波ジュニア新書)を読んで以来、コスタリカはとても気になる国の1つになっています。2018年には国内で発電された電力の98.15%が再生可能エネルギーとなり、98%を超えたのは4年連続とのことで、ますますコスタリカが気になっています。

記事の中でコスタリカの大統領は、70年前に軍隊を廃止したおかげで、GDPの8%を教育に投資できるようになり(*)、人々の能力と幸福が国の強みになるなど、多くのことが可能になったと語っています。記事によると、コスタリカは2006年以降4回発行されている『Happy Planet Index(HPI)』でも、地球上で最も幸福度が高く、持続可能な国になり、1位になったのは4回中3回だそうです。

この記事では、魅力的な側面だけでなく、課題も指摘されていて、国内の識者や政治家がどのようにその課題を捉えて取り組もうとしているのかも書かれています。やや長めではありますが、単語はそこまで難しくはないように思うので、さらっと読めるかと思います。

*ちなみに日本の教育への公的支出はGDPの2.9%(2018年のOECDによるデータ参照)。この数値は加盟国平均4.2%を下回り、2年連続で加盟国中最下位[参照:日本、2年連続最下位=教育への公的支出-OECD(時事通信2018/09/11)]。

【4】Happy Things―お気に入りのモノ・コト紹介
These daysのコーナーでお味噌を仕込んだ話を書きましたが、今月は、毎年送ってもらっているマルカワみそさんの麹のことをご紹介したいと思います。

マルカワみそさんの麹は、蔵に住んでいる天然のこうじ菌(通称:「蔵付き菌」「蔵付き酵母」)で、米麹には有機栽培のお米のものと、自然栽培のお米のものがあります。豆麹や、麦麹も作られています。ウェブサイトで生産者さんの紹介があり、ていねいにお付き合いをされていそうだなあと、安心できます。放射性物質についても、検出限界値1ベクレル以下で放射性物質の検査をされているとのこと

「麹」と一口に言っても、一般的には純粋培養の麹が多く、純粋培養の菌を培養するときには、化学物質の培養液や突然変異株、遺伝子組み換え株といった技術が使われるそうです。化学物質過敏症の方は原料が有機栽培でも、菌が化学的な培養のされ方をしているものだと反応してしまう方もいるそうで、反応が出るのが早いか遅いか、あるいは気づいくほどか気づかないほどかの差であって、きっと人間にとって良いものではないのだろうと思います。人も自然の存在なので、自然から離れるほど人は不健康になり、自然に近づくほど、本来の健康に戻るものなのではないかなと思います。

蔵付き菌は蔵に住み着いている天然の菌のこと。稲につく「稲麹」を採取して麹を作っているところもあります。

穀物を放置しておくと麹菌が付いたり、納豆菌が付いたり、いろんな発酵現象が起こります。うちでも偶然発見したことがありますが、空気中にはいろんな菌がいて、おむすびを忘れて放置していたら、甘酒になっていたことがありました。甘酒を作るのは麹菌。空気中にいた麹菌が米を発見して寄ってきて増えて発酵させたようです。温度によって納豆菌が優勢になったり、麹菌が優勢になったりするので、麹を増やしたかったら、麹菌が好きな温度と湿度を保ってお世話をします。

この方法は手間も時間もかかるうえに、うまくいくときもあればいかないときもあり、明治時代よりも前は蔵元で自然に存在する菌を採取していたそうですが、より安定していて便利な純粋培養の菌を菌屋さんから買う蔵元が多くなったそうです。

純粋培養は、人間が欲しい菌だけを残して、あとは手段を選ばず全て排除(exclusion)、みたいな世界ですが、蔵付き酵母は、人間が使いたい菌以外の菌も仲間にして取り込んでしまったり、菌たちがリレーしてそれぞれ住みやすい環境を作っていたり、棲み分けをして共存したりという包摂(inclusion)の世界なのではないかな、と思ったりします。

マルカワみそさんでは、蔵付き菌のみそを患者さんのために探しているお医者さんと出会ったことがきっかけで、50年ぶりに記憶を頼りに何年も試行錯誤をして蔵付き菌を復活させたとのこと。そんなストーリーを聞くと、これからも蔵付き菌を育て続けてほしいなあとますます思うようになり、毎年取り寄せさせてもらうようになりました。

※蔵付き菌についてはマルカワみそさんのこちらのコラムも御覧ください:
「蔵付き麹菌について」

当時は滅多に見かけることがありませんでしたが、最近では甘酒などのパッケージで「蔵付き酵母」「蔵付き菌」という表示もたまに見かけるようになってうれしいです。

【5】Books&Music:今月は音楽『You've got a friend』(Carol King)
おすすめの本とおすすめの音楽を隔月でご紹介しています。今月は音楽のご紹介です。

今月ご紹介するのはCarol Kingさんの1971年のアルバム『Tapestry』に収録されている『You've got a friend』です。1年くらい前に偶然遭遇して知りました。James Taylorさんのバージョンのほうがどうやら有名らしいのですが、どちらも大好きです。お二人は親友どうしとのことで、2人でコンサートで歌っているバージョンも大好きです。

歌詞が微妙に違うところもあるのですが、Carolさんのバージョンのほうが熱さがある感じ、Jamesさんのバージョンのほうはシャイで控え目に押さえているものの同じくらい熱いものを隠している感じだなあと思ってよく聞いています。

ざっくり要約(?)すると、まさしく「A friend in need is a friend indeed.」という感じ(ワタシ的にはですが…)。困ったときはいつでも呼んでくれたら助けに行くから、と友人に語りかけている歌です。こんな友だちがいてくれたらどんなに心強いだろう、なんていい友だちなんだ…という歌詞です。「こんなこと歌えない」という人にも会ったことがありますが、物理的に駆けつけるのは無理でも、気持ちの上ではいつでも誰かの支えになれるような、この歌のような友人でありたいものだと、歌うたびにも聞くたびにも思います。

Carolさんの力強いピアノ伴奏のバージョンも、Jamesさんの繊細なギター伴奏のバージョンも、どちらも最高に好きです。ほかにもLady Gagaさんなどさまざまなアーティストがカバーされています。

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和暦新年ですね。西暦で新年が始まってからひと月あまり。月日の経つのは早いものですね。一年で一番寒い時期ではありますが、今日は立春=次第に春へ向かっていく季節。春の草が芽生え始めたり、木蓮や河津桜の蕾がふくらんできたり、まわりでは春に向けた準備が着々と進んでいるようです。今月もこんな文字ばかりの月報をお読みいただきまして、ありがとうございました。また来月もなにかおもしろいことをお届けできるようにがんばりたいと思います。それでは今月もお元気で楽しくお過ごしください。